名古屋高等裁判所 昭和28年(う)377号 判決
論旨は原判決が被告人に本件不動産詐取罪の成立があるものと判示しているのは誤りで理由不備乃至は理由齟齬の違法があるというに在る。按ずるに、原判決挙示の証拠によれば、同判示の如く阪上重信は金借の担保として被告人の為に判示不動産に抵当権を設定しようとしただけで被告人に対し曽て本件不動産譲渡の意思表示を為した事実はなく、しかも判示の通り被告人名義に移転登記の為さるゝに至つたのは、被告人が阪上重信の不注意を利用して、情を知らぬ司法書士小島秀清が被告人の言葉に従つて作成した売買を原因とする本件不動産移転登記申請手続を、右小島に委任する旨の所有者対木信三名義の委任状の右対木信三名下に同人の印影を押捺させ(この場合押印者が右小島であると阪上であるとによりその法律上の性質に格別の差異はない)た結果右小島に於て同委任状に基き、本件登記申請をするに至つたもので、本件訴因とはなつていないが、右委任状の作成につき被告人に別罪の成立することが考えられると共に論旨第一点に対する説明によつても明らかな如く被告人が公正証書原本不実記載並にその行使罪の責任を免れないことは明らかであるが結局不動産譲渡の意思表示は存在せず又本登記により法律上の譲渡の効果も発生するものではないから、その詐欺罪の成立を認める余地はないものといわねばならぬ。(大審院大正十二年十一月十二日判決、同判例集二巻七八四頁以下参照)原判決の右詐欺の認定は法律の解釈適用を誤つたによるものというべく。この点に於て破棄を免れないので論旨は結局理由がある。
(裁判長裁判官 河野重貞 裁判官 高橋嘉平 裁判官 山口正章)